「なぜ、魚なんですか?」
「ははは、それは魚だからだよ、水から出た魚」
黒ぶちめがねに帽子、やぶれたジーンズの大男。
パーカーのフードをキュっとかぶって、
めがねの奥の小さい目はにらんでいるようにも、
不機嫌なようにも見える。
薄いまゆげ、丸鼻、分厚い唇でニカッと笑うとちょっと不気味だ。
とてもとてもアーティスト然としてない。
男の名は魚。
氷るように寒い街を、ギターを背負って泳ぐ魚に出あった。
彼の魔法の箱のようなギターから溢れる音と歌は、聞く者の魂に届く。
全然飾らないのに、世界で一番美しいメロディのように感じさせる。
大音量で鳴るスピーカーがビリビリふるえるみたいに、心が共鳴する歌。
そんな魚と、しゃべった。
しゃべっただけでなく、ライブの後、飲みに行く事になる。
芸術関係ばかりが寄り集まった魚の友達たちと、
一緒に美味しいものをいっぱい食べて飲んだ。
えびワンタン、キムチチゲにタラチリ、エイの刺身、カキの塩辛、トンチミ(水キムチ)。
行きつけらしいその店は、まるで自分の家のようにくつろげる場所だった。
店の人もみんな絵を描く人や音楽をやる人たちらしい。
隣の部屋には、やっぱりインディーバンドのミュージシャンたちが集まっていた。
食べ物の話に音楽の話、映画や美術の話をたくさんした。
魚としゃべると、相手をじっとよく見てちゃんと聞いてくれているのがよくわかり、
彼の歌と同じぐらい人間の奥行きの深さを感じる。
夜中の3時過ぎには、みんなで魚の家に移動して、
ハムサンドとチーズにワインを飲んだ。
彼の愛犬「ポッコム」は中国犬チャウチャウのオスなのだが、
ほとんど熊かライオンのようだ。20年生きるという。
魚の言うことだけはよく聞く。でかいがなんともかわいい。
名前の響きもかわいいと思った。
さんざんワインを飲んでリラックスしたあと、
お酒を飛ばすために魚がラーメンを作ってくれて、食べた。
魚のオモニが作ったキムチは最高に美味しかった。
5時半に家を出ると、外はすでに朝の空気だった。
タクシーを飛ばして下宿に帰ると、夢だったのかなんだったのか
よくわからなくなる。でも、魚の歌だけがずっと頭のなかに残っている。
次に魚にあえるのはいつだろうか。
to be continued
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